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モノのインターネット: あらゆるモノがつながる世界に登場する新たな脅威 

Jan 23, 2014 01:29 AM

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ベビーモニターが覗き見に悪用されるということはありえるでしょうか。テレビがユーザーの視聴傾向を監視したり、自動車が悪質な攻撃者によってハッキングされたりする可能性はあるでしょうか。はたまた、セットトップボックスやインターネットルーターのようにどう見ても無害そうなデバイスが、ホームコンピュータへの侵入口として利用されることはありえるでしょうか。

「モノのインターネット」(IoT)が実現するとともに、セキュリティ上の脅威の標的になるデバイスはますます増え続けています。「モノのインターネット」とは何でしょうか。簡単に言えば、インターネットに接続されているのがコンピュータだけではなくなる時代に向かっているということです。家電製品やセキュリティシステム、暖房、照明器具、そして自動車まですべてがインターネットに対応しつつあります。ほとんどあらゆるモノがインターネットに接続される世界という壮大な構想、それが「モノのインターネット」です。

刺激的で新しい変化が今まさに起ころうとしています。インターネットに対応した住宅では、終業後に会社を出る前にホームネットワークにログオンし、セントラルヒーティングやオーブンの電源を入れておくことができます。夜間の外出中にアラームが鳴り出した場合でも、スマートフォンからホームセキュリティシステムにログオンすれば、防犯カメラを確認し、異常がなければアラームをリセットすることが可能です。

問題なのは、新しいテクノロジの発展があるところには必ず、セキュリティ上の新しい脅威も生まれてくるということです。今や多くの消費者は、コンピュータがマルウェアの標的になりえることを強く認識しています。新世代のスマートフォンが攻撃に対して脆弱であるという認識も浸透しつつあります。しかし、それ以外のデバイスに対する脅威を認識している人はほとんどいません。

Linux ワーム

モノのインターネットはまだ生まれたばかりですが、脅威はすでに存在しています。たとえば、シマンテックの研究員である林薫は最近、Linux オペレーティングシステムが稼働しているコンピュータを標的にする新しいワームを発見しました。Linux に触れたことがある人は多くないかもしれませんが、Linux はビジネスの世界では大きな役割を果たしており、Web サーバーやメインフレームなどの運用に広く利用されています。

このワーム Linux.Darlloz に、当初それほど特異な点があるようには見えませんでした。Linux.Darlloz は、スクリプト言語 PHP に古くから存在する脆弱性を利用してコンピュータにアクセスし、一般によく使われている一連のユーザー名とパスワードを組み合わせて管理者権限の取得を試みたうえ、他のコンピュータを検索して自身を拡散します。侵入先のコンピュータでバックドアを開くので、攻撃者はそのコンピュータに対してコマンドを発行できるようになります。

このワームが悪用していたのは PHP の古い脆弱性であり、拡散するためにはパッチが適用されていないコンピュータを見つけなければなりません。機能がこれだけであれば特筆すべき点は何もありませんが、林がさらに Linux.Darlloz を調べた結果、興味深い事実が判明しました。実際に活動が確認されたバージョンは、PC やサーバーで広く使われている Intel x86 系のチップアーキテクチャを採用したコンピュータのみに感染するように設計されていましたが、その後、そのワームと同じサーバー上で、ARM、PPC、MIPS、MIPSEL の各チップアーキテクチャ用に設計されたバージョンがホストされていることが確認されました。これらのアーキテクチャのほとんどは、ホームルーター、セットトップボックス、防犯カメラといったデバイスや産業用制御システムで利用されています。つまり、攻撃者はいつでも、これらのデバイスに対する攻撃を開始できる状態だったことになります。

このワームの機能で注目に値するのが、Linux.Aidra という他の Linux ワームが存在しないかスキャンすることです。このワームに関連付けられているファイルが見つかると、Linux.Darlloz はそれらを削除しようとします。また、Linux.Aidra が使う通信ポートも遮断しようとします。他のワームを削除している背景に利他的な動機はありません。おそらく Linux.Darlloz を操る攻撃者は、Linux.Aidra に感染するようなデバイスはメモリも処理能力も制限されていることを知っており、そうしたリソースを他のマルウェアに使われたくはないと考えたのでしょう。

Linux.Darlloz が駆逐しようとしている Linux.Aidra 自体も、同じ新世代を代表する脅威です。シマンテックが発見した Darlloz の一部の亜種と同様に、Linux.Aidra は小型デバイス、具体的にはケーブルモデムや DSL モデムを標的にします。Linux.Aidra が小型デバイスをボットネットに追加すると、攻撃者はそれを利用して分散サービス拒否(DDoS)攻撃を実行できます。Darlloz の作成者が誰であれ、すでに感染が広がっている Aidra が Darlloz にとって脅威になる可能性があると判断したことは明らかです。

この手の脅威で特に懸念されるのは、デバイスで稼働しているオペレーティングシステムに対しても攻撃の恐れがあるという事実に、多くのエンドユーザーがまったく気付いていないことです。これは、ソフトウェアがデバイス上では目に見えないことがほとんどだからです。製造元によっては更新版が提供されないという別の問題もあります。これは、新しいバージョンのソフトウェアを実行できないなど、旧式の技術やハードウェアの制限が原因です。

脆弱な防犯カメラ

Linux.Darlloz も、モノのインターネットを取り巻くセキュリティ上の新たな脅威が際立った一連の事案のうち、最新の一例にすぎません。今年に入ってすぐ、米国連邦取引委員会は TRENDnet 社に対する訴えを和解で解決しました。同社は、インターネット対応の防犯カメラとベビーモニターを製造しているメーカーです。TRENDnet 社は安全性を謳って製品を販売していましたが、「実際には、同社のカメラはソフトウェアに問題があったため、カメラのインターネットアドレスさえわかればオンラインで自由な閲覧と、場合によっては傍聴も可能な状態だった。そのような欠陥があるため、数百人もの消費者のプライベートなカメラ映像がインターネット上で公開されるに至った」と FTC は指摘しています。

2012 年 1 月にあるブロガーがこの欠陥を公表したところ、700 台近いカメラのライブ映像のリンクが公開されてしまいました。「映像には、ベビーベッドで眠っている乳児や遊んでいる子どもの姿だけでなく、大人の日常生活まで写っていた」と FTC は述べています。FTC との調停の一環として、TRENDnet 社はデバイスのセキュリティ強化を余儀なくされ、今後の販促資料でセキュリティについて誤解がないよう図る旨を確約しました。

TRENDnet 社の事案で特筆すべきなのは、標的となったデバイスが何のマルウェアにも感染していなかったという点です。セキュリティ設定が原因で、方法さえわかれば誰でもアクセスできる状態になっていただけです。しかも、事案はこれだけで終わってはいません。今では、インターネット対応のさまざまなデバイスを検索できる SHODAN という検索エンジンまで登場しています。

SHODAN が検索するのは、Web サイトではなくモノです。防犯カメラなどの家庭用デバイスだけでなく、ビルの暖房制御システム、水処理プラント、自動車、信号、胎児の心音モニター、発電所の制御系まで検索することができます。SHODAN で検索できたからといって、必ずしもそのデバイスが脆弱であるとは限りませんが、このようなサービスがあれば、攻撃者は脆弱性の存在をつかんでいるデバイスをさらに容易に発見できるようになります。

あらゆるモノがつながる世界

懸念されるのは、セキュリティ上の脆弱性だけではありません。インターネット対応のテレビは今やごく一般的であり、ストリーミングビデオサービスや Web ブラウザなど便利な付加機能が豊富に用意されています。電子機器メーカーの LG 社は最近、同社のテレビのうち一部のモデルがユーザーの視聴状況を追跡し、集計データを同社に送信していることを認めました。LG 社は、ユーザーに提供する広告をカスタマイズすることが目的であると説明しましたが、この機能がオフになっていてもデータが収集され続けたことについては、システムに問題があったためとしています。同社によると、この問題を修正するファームウェア更新は現在準備中です。

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図 1. 全世界のインターネット対応デバイスの増加予測(出典: Cisco 社)

モノのインターネットは、依然として黎明期にありますが、インターネット対応のデバイスは爆発的に増えつつあります。Cisco 社によれば、地球上には現在 100 億台を超えるインターネット対応デバイスが存在しています。世界の人口は 70 億を少し超えたところなので、今や人間の数よりインターネット対応デバイスのほうが多いということです。インターネット対応デバイスの数を記録してきた Cisco 社は、その数が 2020 年までに 500 億に達すると予測しています。注目すべきは、その増加のうちほぼ半数が、予測期間の最後の 3 年間に集中していることです。

これまでにも、さまざまな種類のインターネット対応デバイスが登場しています。たとえば、ただのサーモスタットでさえ今では Web 対応です。電球も同様で、スマートフォンで照明を調節できるようになりました。自動車業界もこの動向に大きく注目しており、リアルタイム情報のストリームを受信できるインターネット対応車の開発を確約しています

これほどの爆発的な増加をもたらしている要因は何でしょうか。簡単に言うと、インターネット上に「余裕」が生まれ、デバイスの製造原価が下がり続けていることです。インターネットに接続されるどのデバイスも、他のデバイスと通信するためにはアドレスが必要です。これが、いわゆるインターネットプロトコル(IP)アドレスです。現行の IP アドレスシステムである IPv4(Internet Protocol Version 4)で使用できるアドレスはほぼ枯渇しており、現在は新しい IPv6 の採用が進んでいるところです。IPv6 では IP アドレスの数が膨大になり、地球上の 1 人 1 人に何十億もの IP アドレスを割り当てることができます。

その他の規格も進化が進んでいます。たとえば、無線通信の Bluetooth 規格を管理している業界団体は最近、Bluetooth の最新版を発表しました。同団体によれば、Bluetooth はモノのインターネットの発展も考慮に入れて進化しています。新しい Bluetooth 規格では、環境がますます輻輳する中でデバイス間の検出と通信が今より容易になるとされています。また、Bluetooth 対応のデバイスが IPv6 規格のインターネットにリンクするのも簡単になります。

このようにネットワーク空間が広がるとともに、インターネット対応デバイスの製造も容易になりつつあります。広く知られているとおり、ムーアの法則によればプロセッサの処理能力は 2 年ごとに 2 倍になります。必然的に、処理能力の低いチップは製造原価が常に安くなっていきます。Wi-Fi チップセットなど他の技術も、ここ数年で価格が大幅に下がっています。こうした要因がすべて重なり合った結果、インターネット対応デバイスの製造は容易に、しかも安価になっているのです。

安全のために

  • 所有しているデバイスの点検を実施してください。デバイスに画面やキーボードがないからといって、攻撃に対して脆弱でないとは言えません。
  • 所有しているデバイスがホームネットワークに接続されている場合には、インターネットを介してアクセスできる可能性があり、保護することが必要です。
  • デバイスを購入したときには、そのセキュリティ設定に注意を払ってください。リモートアクセスが可能であれば、必要でない限り無効にします。デフォルトのパスワードは自分しか知らないパスワードに変更し、「123456」や「password」といった誰でも簡単に推測できるパスワードは使わないでください。文字、数字、記号を組み合わせて長くすれば、パスワードの強度が上がります。
  • 製造元の Web サイトを定期的にチェックして、デバイスのソフトウェアの更新版がないかどうか確認してください。セキュリティ上の脆弱性が見つかった場合、通常は、脆弱性を解決する新しいソフトウェア更新が製造元から公開されます。

多くのデバイスはホームネットワークにつながっており、そのホームネットワークはインターネットにつながっています。ルーターやモデムは、デバイスと外の世界との間に置かれるデバイスであり、保護することが特に重要です。通常はファイアウォール機能が付随しているので、機能を有効にして適切に設定するようにしてください。

 

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